Newsletter vol.26 社長が博士課程の学生になると何が起こったか⑫ <完>
長沼 恒雄
今回で、私の研究でたどりついた結論とその後についてお話をして本テーマを閉じたい。
私の博士学位論文の題目は「熟練作業者の知識を活用した射出成形の生産性の向上」である。この論文はアスカカンパニーの生産現場から得られた膨大な生産データに基づいてまとめたものである。研究の内容と得られた結論を要約する。
人の知識と生産ログデータを用いて、「成形機の異常検知」と「不良品の外部流出を減少」するための手法の研究を行い、熟練作業者の知識を活用したデータマイニング(1)による生産性の向上を示した。すなわち、熟練作業者の暗黙知とデータマイニングを用いたデータ取得と処理を有効に活用し、ものづくりのさらなる生産性向上と競争力の強化ついての将来性を示すものである。プラスチック業界だけでなく、多種多様な生産現場で活用されると、生産プロセスへの理解と技術の伝承が進み、日本のものづくりの生産性向上と競争力強化が期待できる。
研究で実装した事例は数多くあるので、興味のある方はアスカカンパニーのホームページやセミナーなどを参考にしていただきたい。 ビジネススクールで2年、引き続きの博士課程の5年間の計7年間を社長業もしながら経営管理とシステム情報科学の分野の理論を学校で学び、社内に実装した。私の場合はオーナー経営者というポジションにいたので、学んだことをただちに会社で試行錯誤しながら形にすることが出来た。本稿のテーマである「社長が博士課程の学生になると何が起こったか」の答えは「経営者としては事業の継続性を持つ組織構造づくり、技術者としてはデジタル技術を使った生産性の向上のシステムを構築」を融合した仕組みを自社にもたらしたと考える。具体的にまとめたものを図1に示す。
図1 アスカカンパニーの持続的成長を遂行するためのアーキテクチャ
博士課程修了した時点で、ちょうど64歳になった。オーナー経営者は退任時期を自分で決めることができるだけに、そのタイミングというのは難しい。図1で示す構造ができたこともあり、ちょうどよい区切りだと思い、その年の事業年度が終了した時点で退任し、弟に社長を交代してもらった。
最後になりますが、読者のみなさまには、1年間、12回の連載につきあって頂き、大変ありがとうございました。本稿がみなさまの何かにお役に立てれば幸いです。
(1)データマイニング:大量のデータに対して統計学やAIなどを駆使した分析を行い、何らかの知見を得るための活動のことです。
(引用:https://jpn.nec.com/solution/dotdata/tips/data-mining/index.html)
長沼 恒雄
株式会社アスカコネクト 取締役、博士(情報科学)・MBA
アスカカンパニー株式会社の代表取締役 兼 CTO、加東市商工会副会長。
大学を卒業後、株式会社サクラクレパスで品質管理を担当。その後、父親の経営するアスカカンパニー株式会社に入社し、アメリカの現地法人社長などを経て、2代目の後継者として約20年間社長として会社を牽引。現在は3代目である弟の長沼誠に社長をバトンタッチ。