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2025年8月17日 / 最終更新日時 : 2025年8月17日 wpmaster NEWSLETTER

Newsletter vol.38 論語と算盤とSDGs⑪ <福澤諭吉> 後編

豊島 敦

 前編では、福澤諭吉の生い立ちと洋行体験をたどり、どのようにして広い世界観を獲得したのかを見てきた。後編では、その思想を結晶させた著作『学問のすゝめ』『文明論之概略』『女大学評論』『新女大学』を手がかりに、学問を通じた個人の自立と男女平等を含む福澤の先進的な思想が現代のSDGsといかに通じるかを見ていきたい。

 「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずといえり」という『学問のすゝめ』の有名な一節を皆さんはご存知だろう。福澤は現実の生活や仕事に役立つ「実学」を重視した。いろは 47 文字や手紙の書き方、算盤などを必須とし、難解な古文や和歌を「実の無い文学」と切り捨て、儒学者も「あがめ貴むべきものにあらず」と断じたのは、いかにも権威主義、形式主義を嫌う福澤らしい。

 このように生まれながらの平等を唱える一方で「人学ばざれば智なし、智なき者は愚人なり」という言葉を残し、学問による能力の差が社会的地位や貧富の差を生むと指摘している。教育の機会の平等と各人の努力が如何に大切かという考えは、現代のSDGs「質の高い教育をみんなに」と一致するものである。こうした機会平等と自己努力による人生開拓の思想は、封建的な身分制に縛られていた明治初期の人々の心をつかみ、『学問のすゝめ』は全17 編、累計 340 万部を売り上げる大ベストセラーとなった。海賊版まで出回ったというから、その人気のほどがうかがえる。余談だが、福澤は、多くの経済・法律・自然科学などの学術用語を造語したことでも知られるが、copyright を版権と訳し、著作権の概念も広めた。(海賊版に対するせめてもの抵抗であろうか…)

 福澤は、明治維新に先立ち慶應年間に「慶應義塾」を開設したが、「義塾」とは古来中国で公衆のために義捐金で運営される学費不要の学塾を指す。福澤はこれに、英国のPublic School の概念を重ね、Public を「義(正義・道徳的な行い)」と意訳し、身分を問わず学生を受け入れた。ただし義塾経営の継続性を重視し、学生から毎月授業料を徴収し、教師には月給をきちんと支払う事で責任を持たせ、余剰分を運営費に積み立てるという、当時としては画期的な仕組みを確立した。また「その身そのまま即身実業の人たるべし」という信念から、卒業後ただちに実業界で活躍することを奨励した。福澤が目指した実学重視の学校は、現代のMBA・ビジネススクールに通じる先進性がある。甥の中上彦次郎は慶応義塾卒業後に三井財閥に入った後、後輩を積極的に登用し、三井財閥の発展に大きく寄与する人材を育成した。こうした実学重視の姿勢は、キリスト教思想家の内村鑑三ら同時代の知識人からは「拝金宗」と揶揄されたが、福澤は「経済的自立なくして精神的自立なし」と考えていた。

 『文明論之概略』では文明の本質を掘り下げ、文明とは外見や技術力ではなく「精神の成熟」や「智徳の進歩」にあり、自ら考え、責任をもって行動する独立した個人の集まりこそが文明社会をつくるとした。「一身独立して一国独立す」という言葉は、その核心を端的に表している。ところで、福澤は、封建主義の理論的支柱となっていた儒教、論語に対しては批判的であったが、決して、道徳観そのものを否定していたわけではない。智徳の「徳」とは、英語で「モラル」「心の行儀ということなり」と説明している。国家は個人の集合体であり、国を豊かにするには、まず個人が豊かにならなければならないと説き、「西洋の文明開化は銭に在り、殖産は国のもとなり。殖産の道開けて衣食足り、衣食足りて礼譲も起こり、教育も行き届く」と主張した。

 女性観でも福澤は先駆的であった。福澤が欧米でレディ・ファーストの文化に驚いたエピソードを前編で紹介したが、『学問のすゝめ』では儒教的な「三従の教え(女性は幼少期は父に、結婚後は夫に、老後は子に従う)」に対し、放蕩淫乱な夫にも従うべきなのかと痛烈に批判している。晩年には、『女大学評論』で江戸期以来の女性教育書であった貝原益軒の『女大学』を一章ごとに徹底的に論破し、その後、福澤の考える女性教育のあり方を『新女大学』としてまとめた。そのなかで、男女に必要な教育の本質は同じであり、特に経済と法律の知識が重要だと説き、女性の自立こそが夫婦の対等な関係と健全な家庭の基盤になり、ひいては国家の自立になると訴えている。こうした主張は、現代の SDGs「ジェンダー平等を実現しよう」にそのまま通じる。

 『新女大学』では、「出産は、男が替わることはできないが、育児はできる。夫も育児に参加すべし」と「イクメンのすゝめ」を唱えたり、「嫁姑関係は難しいのが当然、同居は避けるべし。経済的に無理でも、せめてかまどは分けるべし」という現実的で人間味あふれる助言も忘れていない。また、『新女大学』出版にあたり、「男子もまたこの書を読むべし」と、男女を問わず読むようにと奨励した。現代でも女性の社会参加には、男性の意識改革こそが必要だと言われるが、福澤がこうした課題の本質を 120 年以上前に見通していたことに驚かされる。

 福澤が生涯を通じて訴えたのは、「自立した個人こそが社会を支える」という一点であったと考える。『学問はすべての人に開かれ、実生活に役立つ実学であるべき。経済的自立と精神的自立は不可分であり、男女とも理性と判断力を養い、公共に責任を持つ主体となることが文明社会の礎となる』。この理念は、現代の企業経営、とりわけ人的資本経営にも大きな示唆を与えている。企業の競争力の源泉は設備や資本ではなく「人」であり、一人ひとりの能力と主体性を引き出す仕組みづくりが欠かせない。福澤が説いた「学問による自立」は、リスキリングやキャリア自律の発想そのものであり、従業員の学びと成長を投資と捉える人的資本経営の中核に通じる。また、「経済的自立」と「精神的自立」の両立は企業にとっても重要だ。待遇や評価制度による安定した基盤と、自ら考え行動できる裁量の付与――この両輪が揃ってこそ、社員は創造性と責任感を発揮する。福澤のジェンダー平等の主張も、多様性を競争力へと転換するダイバーシティ&インクルージョンの基盤をなすと考える。

 SDGs が掲げる「持続可能な価値創造」を実現するためには、福澤が説いたように、自立した個人の集まりとしての組織づくりが欠かせない。自ら学び、経済的にも精神的にも自立し、公共に資する人材を育てる――それこそが、時代を超えて組織と社会の持続的成長を支える“文明”の条件であろう。

中津駅にある『学問のすゝめ』の一節
福澤が権威の象徴として捉えたであろう中津城

【参考文献等】

・福澤諭吉「福翁自伝」青空文庫

・福澤諭吉「学問のすゝめ」青空文庫

・福澤諭吉「文明論之概略」青空文庫

・福澤諭吉「女大学評論」「新女大学」青空文庫

・平川祐弘「進歩がまだ希望であった頃-フランクリンと福澤諭吉-」講談社学術文庫

・杉山伸也「福澤諭吉と文明開化」郵政博物館 研究紀要 第10号(2019年3月)

 
 

豊島 敦 (Toyoshima Atsushi)

株式会社アスカコネクト 顧問

新卒で全国信用金庫連合会(現 信金中央金庫)に入庫、おもに投融資業務に携わる。1997年~2002年ニューヨーク支店にて、北米クレジット投融資、ストラクチャードファイナンス投資などを担当。その後、ニューヨーク駐在員事務所長、名古屋支店長、法人営業推進部長、中小企業金融推進部長を歴任。2021年理事に就任、2024年6月退任。現在は常勤の他、株式会社地域金融研究所 特別顧問、クオンタムリープベンチャーズ株式会社 アドバイザー、 及び Tranzax株式会社 顧問を務める。

W.P. Carey School of Business , MBA

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