Newsletter vol.45 人材育成のすゝめ③
林 万美子
前回、現場での実践と学問的アプローチの双方から導いた結論として、「できるだけ若いうちに、会社の方向性と自分の方向性をすり合わせ、ライフとワークそれぞれのキャリアを自分ゴト化できるかどうか」が、会社にとっても本人にとっても極めて重要であることをお伝えしました。そして、その気づきを促す仕組みとして、人材育成研修の中で 「会社の目標 × 自分の目標」を結びつけるプログラムを設計していることにも触れました。
アスカカンパニーでは、従来から様々な企業様に見学を頂いております。これまでは無人化やDXなどに注目を頂いておりましたが、最近は人材育成についてもご質問等を頂く事が多くなってきました。「研修を実施して、給与明細の見方から教えています」とお伝えすると驚かれる方が多いという事ですが、何故会社が、就業時間中にそんな研修を実施しているのか、疑問にお答えしたいと思います。
アスカカンパニーでの取り組み
当時アスカカンパニーの代表を務めていた長沼や人事担当役員と、どの層から教育に着手するかを検討した結果、やはり若手層を優先する事にしました。理由は、まだ十分に能力が引き出せていない人材や、変化を受け入れやすい人材が多いと感じていたためです。皆さんも耳にされたことがあると思いますが、「262の法則」とは、どんな集団でも自然と2:6:2の割合に特性が分かれるという有名な経験則です。一般的に人材を語る場合では、
・上位2割:主体的で組織や仲間をリードしてくれる層
・中間6割:関わり方で伸び方が変化する層
・下位2割:成果が出にくく課題を抱えやすい層
とされています。
研修で成長を狙う対象は、この中間6割としました。さらに、中間層を更に262に分類した際に、中間層下位2割が全体の下位2割に転落せず、中間層上位2割へと成長する事を目標に掲げ、組織全体の底上げをはかる事としました。

若手向けの研修設計
若手を対象とした研修は、18歳~20代後半を3つの階層に分けて実施する事としました。一番上が20代後半を対象としたStep Up研修(ベテラン一般職)、真ん中が20代半ばに向けたMind Up研修(中間一般職)、一番下が一入社3年目までのStart Up研修(初級一般職)と、数年をかけてこの順序で研修ラインナップを充実させていきました。

最初に着手したStep Up研修は、仕事で経験を積み、プライベートでも家族が増えるなど、人生のステージが進むタイミングでの実施を想定し、「仕事もプライベートも充実した人生を送るために」をテーマに、全6回で学びを深めます。
仕事と私生活、両方のキャリアを俯瞰しつつ、会社の方向性も踏まえて、中長期的な自分戦略を練ります。冒頭でご説明した「会社の目標」や方向性をしっかり理解しつつ、「自分の目標」とのすり合わせを行います。また、仕事以外からのインプットが少ないことから、毎回1冊本を読み、5分で内容と気づきを共有する取組も行っています。職場の仲間の興味・関心に触れたり、説明力の高さに気づいたりと、本の内容だけではない副次効果も得られています。そして最終回には、上司・後輩が同席する場で自分戦略を発表するのですが、成長の方向性を共有することが、成長を支援し合う風土のづくりにもつながっています。
研修を通じて見えてきたこと
この研修を実施して気づいたことは、『会社の方針をどれだけ言葉で説明していても、自分ゴトとして捉えている人は驚くほど少ない』という事でした。アスカカンパニーでも社員に向けた方針説明は頻繁に行っていましたが、「会社は会社、自分は自分」と別物として捉えている人が多くいた印象がありました。
しかし、働いて給与を得ている会社の今後と、自分の人生の今後が全く違う方向を向いているはずもありません。会社を取り巻く情勢の理解、簡単なSWOT分析などを行い、会社方針と照らし合わせる事で、自分の仕事の延長上に会社の目標があること、またプライベートそれぞれのキャリアを重ね合わせて考えられる人材が育ってきたと感じています。
もう一つの大きな気づきは、『自分がどう成長したいかを言語化し、仲間と共有することの効果』です。多くの企業で面談の機会を持たれていますが、会社の要望や目標設定が中心で、本人の私生活での方針や希望を聞く機会は多くありませんし、最近は「プライベートはタブー」という感すらあります。そもそも、「自分がどうなりたいか」を深く考えている人も多くないと思います。だからこそ、研修という立て付けの中で「自分の方向性と、頑張れば到達できるスモールゴールの設定」をすることに大きな価値があると考えています。また、それを上司や先輩、同僚がお互いに応援する会社の雰囲気は一朝一夕にできるものではありませんが、長年かけて効果は出ていると感じています。
業務遂行のスキルや資格など人的資本を伸ばすこととはもちろん重要ですが、それと並行して「自分は何がしたいのか、そのためにはどう行動すれば良いのか」を考える機会を提供し、前向きに行動する力=心理的資本を育てる事は、手間と時間はかかりますが、長期的には会社にとって非常にメリットが大きいと感じています。アスカカンパニー以外でも研修を実施させて頂く事が増えてきましたが、ある企業の社長様から、「昔と違って今は、会社での成長をシビアに求めているのに、一方で個人としての成長は本人に丸投げ、というのは薄情だと感じていました。研修を通して考える時間を提供できて良かった。」というお言葉も頂き、賛同いただける方も増えています。
人材不足が深刻化する中、今いる人材に丁寧に手をかけ、成長を支援する事が、未来に備える第一歩だと考えています。
次回は、他の研修や成果などについてお話したいと思います。
林 万美子 (Mamiko Hayashi)
株式会社アスカコネクト 代表取締役/MBA
新卒で地元京都の信用金庫に入庫、主に融資業務に携わる。金庫在職中に経営について興味を持ちMBAを取得、2016年に金庫を退社。その後、金庫OBの経営するコンサルティング会社を経て、2018年アスカコネクトを設立し代表に就任、現在に至る。

