Newsletter vol.12 「女性」活躍 なぜ必要?
林 万美子
先日、信金中央金庫主催の事業性融資研修に講師として参加した。埼玉県内4信金・91名女性職員を対象に、スキルアップ・マインドアップ・ネットワーキングを目的とした研修である。私自身のキャリアについて講演し、マインドアップのお手伝いをさせていただいた。その中でも少し紹介したが、これまで多くの人と仕事をする中で、優秀な女性ほど自己評価が低い傾向にあると感じてきた。男性がどうとは言わないが、女性は「いえいえ、私なんて」と謙遜し、自慢と取られないよう、悪目立ちしないよう細心の注意を払う。少なくとも仕事上で空威張りや自慢をすることは稀だと思うのだが、皆様のご意見は如何だろうか。
私が新卒入社したのは20数年前。入社試験は学力だけで見れば8割を女性が占めるが、組織の継続性と男女バランスを考えると優秀な女性を減らしてでも、男子を取る必要がある、という話をいろんな会社で耳にした。幸い私は男女の別なく仕事ができる環境を享受できたが、今現在でも儒教的社会通念と個人主義との狭間で葛藤する人は多い。このように、もともと優秀な人材が、社会から求められる「らしさ」や「謙虚さ」に加えて、「自分なんて」と自分自身に過小評価の呪いをかけ続けた結果、本来備えている能力や個性を十分に発揮できていない可能性は非常に高い。それが、単に1人2人ではなく、多くの人に当てはまるとすれば、組織や社会に甚大な機会損失をもたらしていると言える。これは単に女性だけでなく、自己肯定感・自己有用感が低い人にも通じる事だろう。
先の研修に先立って質問を募集した。私だけの意見よりも、実際の金庫取引先規模の中小企業の意見も取り入れた方が良いだろうと思い、グループ会社のアスカカンパニー(株)にも質問を展開した。その内容は「女性に対して特別なケア・措置を講じるか、男女ともに働きやすい環境を整備するか、どちらが良いか?」というものである。同社は従業員パート含めて250名規模の中小企業であるが、ユースエール・プラチナくるみん・えるぼしの3認定を持っている稀有な存在でもある。そのアスカカンパニーを長年牽引してきた長沼恒雄氏の回答は、「女性に合わせたほうが、バランスがよく、皆がハッピーになるのではないか」というものであった。
さて、ここでタイトルにある「女性」活躍がなぜ必要なのかについて、識者の知恵を借りたい。宗方比佐子著『キャリア心理学から読み解く「女性とリーダーシップ」』(ミネルヴァ書房 2023)では3つの観点があると説明している。「平等にリーダーの地位を負担すべき」という公平性、「生産性の向上」に期待を寄せる経済性、そして「すべての人々の働き方や生き方をより良い方向へ変化させる」という観点である。この3つめを、「多様性を推進することで、特定の人材や役割を担う人への負荷が軽減され、結果として社会全体の有益性が高まる状況」と捉え本稿では「有益性」と表現したい。そして、この「益」を享受するのは、女性本人だけでなく、家族、会社、従業員、全てのステークホルダーであろう。これは先ほどの長沼氏の「『皆が』ハッピーになるのではないか」という考察とも一致する。
今後、労働力の確保はどんどん難しくなることは周知の事実である。企業が人を選ぶ側から選ばれる側に逆転する未来はそう遠くない。その時に見せかけの多様性や公平性を謳うだけの企業がどれだけ競争に勝ち残り、競争力を維持できるだろうか。
蛇足ではあるが、面白い資料を見つけたので皆さまに共有したい。日本人女性は若いうちは自尊心が低いが年齢を重ねるにつれ高まる傾向にある一方、日本人男性は若いうちは自尊心が高いものの年齢を重ねるにつて低くなる傾向があるという。興味ある方は是非ご一読頂きたい。
Age and Gender Differences Self-Esteem — A Cross-Cultural Window