Newsletter vol.17 社長が博士課程の学生になると何が起こったか③
長沼 恒雄
ビジネススクール(BS)では学びの集大成である「課題研究」論文が学生に課せられる。これに合格しないと卒業はできない。学生は最終年度(2年目)に希望する先生のゼミを選択し、毎週土曜日の1日を使って、先生から指導が行われる。平日に研究を進めながら、週末には先生にその成果を報告し、指導を受けるというサイクルが半年間続いた。今、振り返ると「課題研究」をするための基礎能力を習得するのが、最初の1年半だったと思うし、そのように授業カリキュラムが組まれていた。
「課題研究」のテーマは自分で決めるルールになっている。言い換えると、テーマは何でもいい。先生方からは2年目が始まるころには、テーマを早く決めておくようにと言われた。論文であり、アカデミックな内容が求められるので、簡単に決められるものではない。同期の皆さんもゼミが始まるころに決めるという人が多かったし、私もそうであった。
前のニュースレターでもお話したように、私がBSに行った動機は「会社全体のマネジメントの方法」を学びたかったからである。そこで、研究テーマはアスカカンパニーの目標管理を取り上げた。アスカでの目標管理の歴史は長く、1985年に創業者が導入し、具体的な管理手法も色々と変えてみたが、決してうまく運用できているとは言えなかった。そのうちに、ISOといわれる品質や環境マネジメントも社内に導入され、目標管理に組み込まれ、管理が複雑になっていった。
一方で、1978年にスタートした小集団活動(MK)は継続的に行われ、成果をあげてきた。そのマネジメント方法も時代とともに変化して、着実に成長してきた。今でもそうだが、MKはアスカの企業文化の中心に位置していた。
このような私の問題意識をベースに指導担当のT先生に相談し、課題研究のテーマを「小集団活動からの目標管理制度の再構築」、サブタイトルは“アスカカンパニーの小集団活動制度をヒントに目標管理制度を見直す”とした。論文の場合は先行研究の調査やフィールドワーク*1などが必要となるが、この時点では具体的な中味の構想はなかった。
とにかく、6か月という短い期間で論文を完結しなければならない、研究にはつきものである“行って、戻って”の部分を最小限にするために、論文のフレームづくりをしっかりと行う必要がある。その中でも、今回の論文において、一番重要なものはフィールドワークであると考えた。人間だれでもそうであるが、追い込まれると、良いアイディアが浮かぶものである。このアイディアは社長というポジションにいたから可能であった。次回は研究の詳細を紹介する。
*1 フィールドワークとは、ある調査対象について学術研究をする際に、そのテーマに即した場所を実際に訪れ、その対象を直接観察し、関係者には聞き取り調査やアンケート調査を行い、そして現地での史料・資料の採取を行うなど、学術的に客観的な成果を挙げるための調査技法である。(出典:ウィキペデア)
長沼 恒雄
アスカカンパニー㈱ 代表取締役 兼 CTO, 博士(情報科学)
アスカクラフト㈱ 代表取締役社長,㈱アスカコネクト 取締役
加東市商工会 副会長
株式会社サクラクレパスで品質管理を担当.その後,父親の経営するアスカカンパニー株式会社に入社し,アメリカの現地法人社長などを経て,2代目の後継者として約20年間社長として会社を牽引.現在は3代目の弟の長沼誠に社長をバトンタッチ.