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2025年9月18日 / 最終更新日時 : 2025年9月18日 wpmaster NEWSLETTER

Newsletter vol.39 論語と算盤とSDGs⑫ 連載を振り返って <完>

豊島 敦

 渋沢栄一の「論語と算盤」を軸に、現代社会と企業のあり方を問い続けてきた本連載も、いよいよ今回が最終回となる。これまで明治期の経営者たちの思想を手がかりに、持続可能な未来に向けた経営の姿を探ってきた。渋沢の「論語と算盤」の本質は道徳と経済の両立にあり、報徳思想においては「経済なき道徳は戯言、道徳なき経済は悪」という格言に集約される。これらの思想が現代のSDGs(持続可能な開発目標)が掲げる価値観とも深く響き合うことはご理解いただけたかと思う。最後に現代社会に生きる我々が、末永く繁栄するために先達が大切にしてきた「手段としての道徳」から何を学ぶべきか考えてみたい。

 日本最大の湿地・釧路湿原では、メガソーラー建設をめぐり自然保護団体や地元住民が反対の声を上げている。湿原は希少な動植物の宝庫であり、環境保全の象徴でもある。森林伐採や景観破壊による影響が懸念され、2025年には市民団体が要望書を提出。釧路市も「自然と調和しない設置は望まない」と公式に表明した。さらに、モデルの冨永愛氏がSNSで問題を提起し、登山家の野口健氏が連携を呼びかけるなど、著名人の支援も広がり、問題は全国的に注目を集めている。再生可能エネルギーの推進と自然保護の調和、その難しいバランスが問われているのである。これはまさに、報徳思想の警句「道徳なき経済は悪」を想起させる事例だ。

 一方で、三菱商事は2025年8月、秋田・千葉の3海域で進めていた洋上風力発電事業からの撤退を発表した。資材高騰や円安、金利上昇などで建設費は当初の2倍以上に膨らみ、採算が取れなくなったためだ。提示していた売電価格も業界水準を大きく下回り、事業の継続は困難と判断された。政府は制度見直しと再公募を検討しており、日本の再生可能エネルギー政策の転換点ともいえる。この事例は逆に「経済なき道徳は戯言」を象徴している。

 こうした現実を前に思い起こされるのが、明治初期の海運業をめぐる岩﨑弥太郎と渋沢栄一の対立である。岩﨑は政府の支援を受けて郵便汽船三菱会社を設立し、独占的に事業を展開した。対する渋沢は「国家的事業は一社で独占すべきではない」として、三井らと共同運輸会社を設立。岩﨑の協力要請にも「主義が違う」として断固拒否した。その背景には「道徳と経済の両立」や公益を重視する合本主義の理念があった。両社は激しい競争の末に結局は合併し、日本郵船が誕生することになるが、切磋琢磨を通じて世界に伍する海運会社となった。今回の洋上風力発電の件も、もし事業者が複数であれば、もう少し違った展開になっていたかもしれない。

 本稿のテーマとしても掲げた国連のSDGs(持続可能な開発目標)は、2000年に始まったMDGs(ミレニアム開発目標)をベースに誕生した。MDGsは途上国の貧困削減や教育の普及で成果を上げた一方で、先進国が抱える環境問題や格差拡大には十分に対応できなかった。そこで2015年により幅広く、先進国も参加できる包括的な目標としてSDGsが打ち出された。では、この17の目標はどのように決まったのか。国連の事情に詳しい国際経済学者の話によれば、「数を増やしておけば、先進国の企業も自分たちが取り組みやすい項目を選んで関わってくれるだろう」という発想から、ブレインストーミングで出たアイデアを寄せ集めて17に落ち着いたらしい。また、目標の順番にも特別な意味はないらしい。

 とはいえ、SDGsの中身を見ていくと、現代の企業経営の課題に直結する示唆が数多く含まれている。「質の高い教育」(目標4)、「ジェンダー平等」(目標5)、「働きがいも経済成長も」(目標8)などは、従業員の能力開発や多様性の尊重、働きがいの向上といった人的資本の核心に通じる。人材を「資源」ではなく「資本」と捉え、戦略的に育成・活用する姿勢は、SDGsの理念そのものと重なる。人的資本への投資は、持続可能な社会の実現に向けた企業の責務といえる。

 報徳思想には「心田開発」という考え方がある。人の心を田畑に見立て、勤労・倹約・推譲といった徳を育み、内面を耕すことで真の繁栄を実現するというものだ。怠惰や欲望を取り除き、至誠と実践を重ねることで個人と社会の再生を目指す思想である。本連載④で取り上げた豊田佐吉は、こうした報徳思想の影響を受け、人づくり・組織づくりに力を注いだ。その精神は豊田綱領として現代まで受け継がれている。連載⑤の岡田良一郎は、協同組織金融制度を築き、金融面で報徳思想を実装しただけでなく、報徳思想を啓蒙する総本山として大日本報徳社を創設し、後世の経営者たちに広く影響を与え続けている。連載⑥の御木本幸吉は、宝石加工職人をヨーロッパに派遣して技術を習得させたり、女性は繊細な作業に向くという適性を活かして真珠加工で地域の女性の就労機会を拡大するなど、先進的な人材登用、育成を実践した。連載⑦の伊藤忠兵衛、連載⑧の大原孫三郎の経営手法は、まさに人的資本経営の先駆けといえるだろう。

 企業の持続的成長に欠かせないのは、人材育成を通じて「道徳と経済」を両立させることである。教育機会の拡充、多様性の尊重、働きがいのある環境づくりも、単なる福利厚生や慈善活動ではなく未来への投資である。渋沢や二宮の説いた「道徳」とは、空疎な理念ではなく、人を育て誠実さと実践力を磨くことで組織を強くし、社会的責任を果たすための手段にほかならない。SDGsの「質の高い教育」「働きがいも経済成長も」が示すように、リーダーに求められるのは短期的な利益を超え、人を「資本」として長期的に育てる覚悟である。その実践こそが、企業の信頼と競争力を高め、次世代に誇れる経営を築く道となるのだろう。

ご挨拶

 1年に渡る連載にお付き合いいただきありがとうございました。SDGsという聞きなれない言葉を初めて聞いてから、持続可能な経営とは何だろうかと自問自答していました。当時は、気候変動対策とSDGsが混同されており、「二酸化炭素削減が、持続可能な経営??」とSDGsに対する懐疑的な見方、あるいは、欧米の価値観を押し付けられることへの猜疑心、アレルギー反応のようなものを感じていました。日本企業の強さの根源をさぐるというこの連載の企画をいただき、回を重ね、書き進めるうちに日本企業の強さの秘訣は人的資本経営にあり、SDGsにもそうした目標が多く盛り込まれているということに気づき、ようやく、持続可能な経営の姿がみえてきたと感じます。本連載が読者の皆様の経営を考えるヒントとなれば幸いです。

 

豊島 敦 (Toyoshima Atsushi)

株式会社アスカコネクト 顧問

新卒で全国信用金庫連合会(現 信金中央金庫)に入庫、おもに投融資業務に携わる。1997年~2002年ニューヨーク支店にて、北米クレジット投融資、ストラクチャードファイナンス投資などを担当。その後、ニューヨーク駐在員事務所長、名古屋支店長、法人営業推進部長、中小企業金融推進部長を歴任。2021年理事に就任、2024年6月退任。現在は常勤の他、クオンタムリープベンチャーズ株式会社 アドバイザー、 及び Tranzax株式会社 顧問を務める。

W.P. Carey School of Business , MBA

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