Newsletter vol.3 生産プロセス異常の通知
長沼 恒雄
前々回のニュースレターvol.1では「しきい値と管理値」の解説をし, 現場の暗黙知をデータで補強しつつ管理限界線を引くのがアスカカンパニーの目指す『人と機械の協働』スタイルの一つであると結論づけた.考え方は違えど,どこの生産現場でも,何らかの管理値が設定され,誰かが何らかの方法で監視している.今回はこの監視と異常発生時の通知方法について考えてみたい.
生産現場における基本的な監視方法は以下の2つであろう.
(1)機械から出力された各種運転ログデータを随時または定期的に人が目視で監視.
(2)機械に予め管理値をセットして監視し.管理値を超えれば,機械がアラームを発報する.
(1)の人による監視は,生産の立ち上げ時と安定時の管理値の違いなど,状態変化に合わせて柔軟かつ総合的な判断が出来る一方で,人が目視でデータを常時監視するのは現実的に難しく,実際は定期的なチェックにとどまるため,通知のリアルタイム性について課題が残る.また(2)の機械による監視は,通知のリアルタイム性は確保できるものの,状態変化に合わせて,監視したい項目に常時最適な管理値をセットすることは非常に難しい.出来るならば,熟練技能者が24時間状態の変化を監視し異常発生をリアルタイムで捕捉,関連部署に通知することで即時対応,としたいところではであるが,現実的ではないため(1)(2)を併用することが多いのではないか.アスカカンパニーでもこれらの課題に取組続けた結果,通知のリアルタイム性については『LMK (Let Me Know)』, 管理値の最適化については機械学習を活用した『異物発生原因推定システム』を開発した.今回は生産プロセス異常の通知方法『Let Me Know』について紹介する.
ASKA MARKET NEWS(1,2)でも紹介している通り,アスカカンパニーの工場内では多くの生産ログデータを取得している.これらのログに対して,様々な監視項目が設定されており,人が目視でチェックを行い,機械にも管理値がセットされている.管理値がセットされている場合は,管理限界値を超えたとき(異常)に,機械がどのように人に伝えるかが課題になる.よく行われる方法としては,「機械自身がアラームを鳴らす」,「集中監視モニター上に異常を知らせる」などによって,人に伝える.しかし,これらの方法は,工場内では騒音レベルが高くので,人に聞こえにくい,常時モニターを見る人が必要であるなどの問題もある.
筆者らはウェアブルデバイスを通じてリアルタイムで人に通知することが出来ないかと考え,図1で示すような仕組みLMK(Let Me Know)を考案した.工場内にある数百台の検査カメラのログデータをコンピューターがリアルタイムで監視し,『異物発生原因推定システム』でデータ分析を行っている.分析により対応が必要な状態を捕捉すると,ウェアラブルデバイス(時計)に通知が届き,振動することで異常を知らせ,人の対応を促すというものである.時計の画面には機械名や異常名が表示される.
このLMKのシステムはカメラ検査だけでなく,成形機のデータ監視も行っており,成形機のデータに異常が認められると,同様に時計の振動と表示により人に伝えられる.成形機の管理値の設定は現場オペレーターに一定の裁量が与えられており,彼らは自身が気になる項目について様々に管理値を設定し状態監視を率先して行っている.このように,アスカカンパニーの生産現場ではデータを活用して人間の感覚を研ぎ澄ますという人材育成にも,当初の想定を超えてLMKが役立っている.
ASKA MARKET NEWS(1,2)
・https://askacompany.co.jp/market-news/15196/
・https://askacompany.co.jp/market-news/17176/
長沼 恒雄,博士(情報科学)・MBA
アスカカンパニー株式会社 代表取締役 兼 CTO(最高技術責任者)
株式会社サクラクレパスで品質管理を担当.その後,父親の経営するアスカカンパニー株式会社に転職し,アメリカの現地法人社長などを経て,2代目の後継者として約20年間社長として会社を牽引.現在は3代目の弟の長沼誠に社長をバトンタッチ.
Ken Naganuma, Ph.D.(Information science),MBA
Executive Director and CTO, Aska Company Co.,Ltd.Prior to working at Aska company, he was working at quality control department of Sakura color products corp. Aska company was founded by his father in 1968 and he became the president of a local subsidiary in the U.S. He has led Aska company in Japan as the president for about 20 years. He is now passing the baton to his younger brother, Makoto Naganuma, the third-generation president.