Newsletter vol.9 成形工場のロボット
長沼恒雄
今回は私が導入を担当した2つのロボットの事例を紹介する
1つ目は,私がアスカカンパニーに入社した1980年代半ばの事例である.世の中ではすでにファナックなどが産業用ロボットを販売し,国内外の工場で活躍していたが,社内にロボットはなかった.当時,私はロボットのある生産ラインは「かっこいい」と思った.それだけの理由で,ロボットが「欲しい」のである.使うあてがないにもかかわらず,無理やり理由を考えて,一番安価(200万円)であった三菱電機製のムーブマスター(写真1)を会社で購入してもらった.置く場所もなかったので,私のデスクの横に置いて,時間があるときに実験的に動かしていた.まわりから見れば,「おもちゃで遊んでいる」と思われていたに違いない.そのうちに自由自在に動かせるようになり,生産現場で実装できそうなアイディアが浮かんだ.
対象の製品は直径8cmほどの化粧品に使われる丸くたいらなキャップで,表面に傷がつくと重大欠陥になる.成形直後(一度に6個成形できる)に取出機により隣のコンベアに置いて,コンベアがいっぱいになれば作業者が箱にいれるというラインであった.当時は取出機も単純な動作しかできないので,コンベア上に6個置けば,コンベアが動くという繰り返しで,10回も成形すればコンベアがいっぱいになる.それまでに作業者が箱に並べないと,製品が床に落ちてしまう.作業者は気になって,他の作業時間に集中できなかった.そこで,ムーブマスターを使って写真2のように製品をつかみ,置ける場所を3次元的に拡張し,成形中の保管スペースを増やすことに成功した.それまでは,作業者が10分毎に製品を並べに行かなければならなかったが,コンベア上で最大1時間半保管が可能になった.作業者は手待ち時間のときに並べ作業をするので,作業性が格段に向上できた.
2つ目の事例は2000年代初頭だと記憶しているが,ドイツの展示会で見たパラレルリンクロボットである.カメラと連動したロボットがピックアンドプレイスの作業を高速で行うことに衝撃を受けた.アスカカンパニーは高速射出成形は得意の分野でもある.高速での生産は迫力があり,見ている人に何か迫るものがある.又しても「欲しい」と思った.機能が特殊(天吊り,超高速)なので,社内での使い道を考えることができないまま,年月が過ぎた.ところが出会いから10年以上経ったときに,導入可能なラインの改造のチャンスがやってきた.アスカカンパニーのHPに動画も入った詳細説明があるので,そちらを参照していただきたい(3).
導入前は作業者の負担が大きいラインであったが,作業負荷が相当軽減できた.導入直後に作業者の方から,「楽になりました.ありがとう」とお礼を言われたことを今でも覚えている.
ロボットは周辺設備を含めれば,コストが高額になる.経営者は投資対効果を考えると導入に躊躇することがある.しかし,肉体的負荷の高い仕事や単純作業はロボットにしてもらうべきである.人はそういう仕事から解放されて,人しかできない仕事をしてもらう環境を整えるのも経営の責任である.
(1) https://www.mitsubishielectric.co.jp/fa/about-us/history/innovation/
(2)この写真はムーブマスターを使用したものではなく,近年の取出機によって整列させたものである.ムーブマスターの場合はこの高さの約3分の1ほどである.
(3) https://askacompany.co.jp/equipment-and-systems/factory-automation/18038/
長沼 恒雄,データサイエンティスト
株式会社アスカクラフト,アスカカンパニー株式会社株式会社サクラクレパスで品質管理を担当.その後,父親の経営するアスカカンパニー株式会社に入社し,アメリカの現地法人社長などを経て,2代目の後継者として約20年間社長として会社を牽引.現在は3代目の弟の長沼誠に社長をバトンタッチ.