Newsletter vol.21 社長が博士課程の学生になると何が起こったか⑦
長沼 恒雄
前号では東北大学で研究をスタートするところまで書いた。この時すでに私は59歳になっていた。この年齢で、しかも社長が大学院の博士課程に行って、研究を始めるケースは珍しいのではないかと思う。専攻は今も時代の先端をはしる「システム情報科学」(1)である。当時は自分自身でも正気か?と思っていたが、今、冷静に振り返ると若い時からその分野でキャリアを重ねてきたので、集大成なるものを何か形にして残したいと考えていたような気がする。今回はこれまで私が歩んできた道を紹介したい。
家業がプラスチック製品の製造・販売ということから、アスカカンパニーの工場でよくアルバイトをした。高校生の時は箱替えやスプーンの包装作業、大学生くらいになると、成形機の操作などもさせてもらうようになり、夜勤作業にも携わった。とにかく、製造現場は楽しかった。
大学を卒業後に文具関係のメーカーであるサクラクレパスに入社した。配属先は品質管理部門であり、工場で新製品に関係する生産ラインの立ち上げなどの仕事を担当した。技術レベルの高い先輩社員たちに囲まれ、業務や講習会を通じて、生産システム、統計学、各種管理手法など学ぶことができた。この会社で学ばせてもらったことが、今の私の「根っこ」になっており感謝している。最初に入社した会社の文化、仕事環境は人のその後の仕事人生を大きく左右すると確信している。
その後、アスカカンパニーに入社し、後継者として、創業者の父を含め諸先輩から期待されながら仕事をすることになる。弟(現アスカカンパニーCEO)も入社してきて、彼は営業関係、私は管理、生産、技術関係を分担していくことになった。
私が社会人になった1980年代初頭、中小企業の管理部門には、コンピュータはあまり導入されていなかった。その理由として、ハードはもちろん開発、運用コストが高すぎたことがあげられる。工場においても、機械制御はリレーシーケンス制御(2)が主流であった。ところが、80年代前半からマイクロソフトやアップルなどのパーソナルコンピュータが市場に普及し始め、時代は大きく変わる。
私は学生時代からコンピュータのプログラムを書いたりしていた。アスカカンパニーに入社後、今風に言うと、社内業務や生産機械のデジタル化を積極的に進めた。アスカカンパニーでのデジタル化初期の80年代から今まで取り組んだ事例を管理系と機械制御系の2つに分けて紹介する。
まずは管理系の事例を紹介する。入社当時は、生産から売上管理までのいわゆる生産管理はすべて手書き台帳である。この業務に富士通のK150というオフィスコンピュータ(3)を導入した。自力ではとても無理なので、システム会社と一緒になって開発をした。システムの設計からコード(Cobol-G)の書き方を学ぶのに富士通の関西ラボにも通いつめた。会社にも寝泊まりしながら(今の時代ならブラック企業で完全にアウト)、プログラムも相当な本数を書いた。会社を大きく変革するプロジェクトであったが、メンバーにも助けられ、立ち上げに成功した。その後、Lotus NotesというIBMが開発したグループウェアも90年代半ばに導入し、自社で情報管理の仕組みを構築した。これらのシステムは技術の進化もあり、現在ではSQL・HTML・JavaScriptなどの言語により、ブラウザを通して誰でも、どこでも簡単にアクセスできるようなシステムに変化している。さらに、Google Workspace(4)で代表されるような外部のクラウドシステムなどとも連携する新しいシステムを構築中である。
次回は工場内で活用される機械制御や生産情報システムの取り組みのお話をする。
(1)システム情報科学
世の中には様々なシステムが存在します。一例として、情報を処理するためのシステム、ロボットを制御するためのシステム、画像を加工するシステム、生物の運動をつかさどるシステムなどがあります。システム情報科学専攻では、このようなシステムを対象として、数学・自然科学・工学という様々な観点からのアプローチにより、複雑なシステムの解明、およびより良いシステムの構築を目指して研究を進めています。(引用:東北大学情報科学研究科のホームページより)
(2)リレーシーケンス制御
電気信号を機械的な動作に変えて、接点を閉じたり開いたりする電気制御機器である、「電磁リレー」などの部品をスイッチとして使用して、電気回路のON/OFFの切り替えを行うシーケンス制御(引用:https://iotnews.jp/manufacturing/176285/)
(3)オフィスコンピューター
経営規模が大きくない会社などの事務処理を目的とした中型のコンピュータを指す。1970年代後半から1990年代にかけて、基幹システム(財務、給与計算、販売管理など)として、多く導入された。ユーザーの注文に応じて、業者が専用のアプリケーションソフトを開発。ハードウェアと一緒に納品した後は、開発業者が運用や管理までを一貫してサポートする形態が一般的である。(引用:https://business.ntt-east.co.jp/bizdrive/word/office-computer.html)
(4)Google Workspace
Googleが提供するビジネス向けクラウドツール。情報共有、ファイル作成、情報の保管 & アクセス、情報の管理など、業務に必要な機能が密接に統合されており、あらゆる働き方に対応する生産性向上とコラボレーションを可能にする複数のアプリケーションにより構成されている(引用:https://rakumo.com/gsuite/)
長沼 恒雄
株式会社アスカコネクト 取締役、博士(情報科学)・MBA
アスカカンパニー株式会社の代表取締役 兼 CTO、加東市商工会副会長。
大学を卒業後、株式会社サクラクレパスで品質管理を担当。その後、父親の経営するアスカカンパニー株式会社に入社し、アメリカの現地法人社長などを経て、2代目の後継者として約20年間社長として会社を牽引。現在は3代目である弟の長沼誠に社長をバトンタッチ。