Newsletter vol.18 社長が博士課程の学生になると何が起こったか④
長沼 恒雄
今回は私のビジネススクール(BS)での課題研究(論文)について紹介する。テーマは「小集団活動からの目標管理制度の再構築」、副題“アスカカンパニーの小集団活動制度をヒントに目標管理制度を見直す”である。BSでは、客観的データをもとに先行研究も参考にしながら、結論を導くように指導されていた。私の場合、外部機関に実施してもらった従業員満足度調査のデータを持っていたので、これを活用して課題への論理的展開を考えていたが、これが甘かった。先生から「このアンケート調査結果では、テーマに対して構造化できていないので役に立たない」と簡単に論破され、たたきのめされた。とにかく研究時間に余裕はないので、気持ちを切り替え、全力で構造化したアンケート*1を作成した。このアンケート(質問項目:70問)を、ただちにアスカカンパニーの全社員(当時:156名)を対象に実施した。回答期限も配布後、1週間で回収するように各部門責任者に指示をした。その結果、153名から期限内に回収ができた。読者の皆さんには誤解のないように言っておくが、アンケートについては、自分自身の感じている率直な考えにもとづいて回答して頂くようにお願いし、回答者の名前は無記名になっている。
論文の構造は次のようにした。①アンケートを使って、うまくいっている小集団活動とそうでない目標管理に対して同じような質問を行い、どこに違いがあるのかを浮き彫りにする。②そのギャップに対して、目標管理の問題点を見出す。③その問題点に対し、先行研究などを活用し、結論としての解決策を提案する。
アンケートの設計については経験もなく、関連の文献なども少なく、大変苦労した。しかし、社員の皆さんの協力もあり、5段階評価による数値と自由記述による言語情報が豊富に収集でき、十分な解析を行うことができた。
本稿では、論文の結論だけを示す。「図1に示すように(①目標の明確性⇒②上司の支援⇒③評価への納得感)の目標管理のサイクルを形成し、繰り返すことにより、持続的に目標管理制度を発展させて行くことが重要である。」
このように結論はシンプルな内容である。しかし、この結論に至るまでには、社員アンケートを論理的に解析、考察したプロセスが存在する。このプロセスが私を成長させ、会社を成長させたと考えている。この論文から、7年が経って、アスカは「人を育成する人材マネジメントセミナー」という有料セミナーを外部の人々に提供できるレベルにもなった。
たった2年間ではあるが、私はBSで多くを学び、会社で実践した。その成果として、会社のマネジメントが大きく変わる起点になった。余談ではあるが、BSの同期ではトップの成績だったで、総代として学長より修了証をいただく栄誉にあずかることもできた。この時が2016年3月であり、翌月には博士課程に入学することになる。
次回はようやく本題の博士課程の話に移る。
*1 構造化されたアンケートとは、特定の目的や調査テーマに関連する情報を効率的に収集するために設計された質問形式のアンケートです。このアンケート形式では、質問は明確で具体的であり、回答者に対して特定の選択肢やスケールを提供します。これにより、データの収集、分析、および解釈が容易になります。(出典:ChatGPT)
長沼 恒雄
アスカカンパニー㈱ 代表取締役 兼 CTO, 博士(情報科学)
アスカクラフト㈱ 代表取締役社長,㈱アスカコネクト 取締役
加東市商工会 副会長
大学卒業後、株式会社サクラクレパスで品質管理を担当.その後,父親の経営するアスカカンパニー株式会社に入社し,アメリカの現地法人社長などを経て,2代目の後継者として約20年間社長として会社を牽引.現在は3代目の弟の長沼誠に社長をバトンタッチ.