Newsletter vol.15 社長が博士課程の学生になると何が起こったか①
長沼 恒雄
2023年10月8日に第66回自動制御講演会(東北大学)で特別講演を行う機会を頂いた。この学会は66年間継続している伝統ある集まりでもある。テーマは学会の実行委員長とも相談し、「社長が博士課程の学生になると何が起こったか」に決めて、私自身のことを45分間、お話をさせてもらった。今回はその内容を数回にわけて記事にしてみたい。
私は博士課程に入学する直前の2年間はビジネススクール(以下BS)で経営学全般を学んだ。博士課程での専門はシステム情報科学であり、BSの専門性とは全く異なる分野である。BSでの授業は、平日は仕事終了後の午後6時半頃からはじまり、土、日曜日も開催され、どの授業でも毎回、課題の提出(宿題)が求められる。何十年もいわゆる勉強から離れていた身には、仕事もしながらの授業はハードであった。ところが人間というものは不思議なもので、大変ではあるが、徐々にこの環境に適応するようになる。すなわち、仕事をしながら大学院で勉強をするという習慣が身につく。この2年間があったから、さらに厳しい博士課程に進学し、学ぶことできた。振り返ってみると、BSで鍛えられたから、博士課程も修了できたと思う。
それでは、博士課程に進学した原点でもあるBSで学ぼうと考えた動機についてお話をする。私が当時、社長をしていたアスカカンパニーは売上拡大に伴って、従業員数が100名を超え、150名に近づいてきた時期があった。100名ほどであれば、社員の顔も見え、それまで通りにやっていれば、社長の考えを伝えることはできた。また、社員の人事評価、昇給、昇格も役員の人たちと会話すれば、ある程度の運用は可能であった。しかし、150名近くになり、工場の数も増えてくると、同じやり方では明らかに行き詰まってきた。今、考えると、会社全体のマネジメントの方法がわからなかったのである。そんな時に色んな本を読んで、ヒントを探した。その中に楠木健さんの「経営センスの論理」という本に出会った。その本は「スキルとセンスは違う」、「良い戦略はセンスがないと生まれない」などを論じており、「センス」という言葉がとても気になった。自分には「経営センス」がないのではという不安もよぎったが、今さら、社長を辞めて逃げ出すわけにもいかない。著者の楠木さんは一橋大学ビジネススクールの教授であった。ひょっとしたら、ビジネススクールにいけば、なんらかの解決策の糸口がつかめるのではないだろうか? この本を読んだのは正月休み、地元で通える学校はないかと探したところ、関西学院大学大学院の経営戦略研究科(BS)募集を見つけた。2月には入学試験を受けて、同年の4月からはすでに通学を始めた。それだけ、私はせっぱ詰まっていたのかもしれない。
次回はビジネススクールでの学びの成果についてのお話をしたい。
長沼 恒雄
アスカカンパニー㈱ 代表取締役 兼 CTO, 博士(情報科学)
アスカクラフト㈱ 代表取締役社長,㈱アスカコネクト 取締役
加東市商工会 副会長
株式会社サクラクレパスで品質管理を担当.その後,父親の経営するアスカカンパニー株式会社に入社し,アメリカの現地法人社長などを経て,2代目の後継者として約20年間社長として会社を牽引.現在は3代目の弟の長沼誠に社長をバトンタッチ.