Newsletter vol.23 社長が博士課程の学生になると何が起こったか⑨
長沼 恒雄
今回は弊社の検査カメラがどのように普及したかについてのお話をする。近年の監視、防犯などのカメラに関連する技術の進化はめざましく、我々の日常生活にも欠かせないものになっている。
アスカカンパニーでは、今から20年ほど前に、ヨーグルトのフタの生産ラインで本格的に検査カメラを導入した。この製品はインモールドラベリング成形1を採用しており、ラベルの位置検査は不可欠である。成形品とラベルの位置を計測するカメラが使用された。当時は弊社にはカメラ検査の技術はなく、外部の専門業者にすべて依頼をした。実際に生産を開始すると、外乱光やラベル印刷色などのちょっとした環境変化に対し、カメラや照明の設定条件を変える必要があった。そのたびに生産現場の人が専門業者に問い合わせて指導をしてもらうのだが、カメラの基礎知識がないので、言われるままに調整しても、うまく条件変更ができないことが多かった。このことは現場の生産性を低下させ、作業する人に大きなストレスを与えた。
同じ頃に顧客先Y社が自社生産ラインに最終製品の外観検査用カメラ検査装置を導入した。Y社が弊社のキャップをカメラによる全数検査を行うことになったので、キャップに練り込まれた異物(熱分解を起こした炭化物)のクレームが時々発生した。発生率としては非常に低く、それまでは許容されていた品質レベルであった。しかし、クレームは絶対に解決しなければならない。
そこで私は、クレーム対策と外観品質向上のために「アスカでも全数カメラ検査装置を導入する。顧客先よりさらに精度の高いカメラ検査方法を用いて、コストも低く抑えた汎用性の高い装置を自社で開発する」という方針を打ち出した。その方針をさらにわかりやすく皆さんに伝えるのに「検査装置に車輪をつけて、違う成形機にも簡単に移動できる」という具体的なコンセプトも示した。
インモールドラベリング成形で外部の専門業者に丸投げした事の反省もあり、難しい道ではあったが、自社でカメラ検査技術を開発することを選択した。外部からの専門人材の採用や内部人材からの養成という、不確実で時間がかかる方法に取り組んだ。ここから現在に至るまでの社内のカメラ技術の進化の説明は省略する。結論だけ言うと、社内外の人材にも恵まれ、社員の皆さんの頑張りにより、当初の方針どおりに所期の目的を達成することができた。
前号でも記述したが、今では200台ほどの検査カメラが24時間稼働しており、不適合品は生産ラインから自動排出される。さらに検査データは誰もが簡単にどこからでもアクセスできるので、製品の外観品質状況はリアルタイムでわかる。画像を含むすべての検査データはサーバ内に保管されており、高いレベルのトレーサビリティが実現した。このことは会社の品質保証レベルを格段に進化させた。
ここまでの3回の連載で技術者としての私自身のキャリアを書かせてもらった。このような現場中心にひたすら走り続けた人間がアカデミックな博士課程でどのような研究に取り組んだかを次回からお話したい。
(1)インモールドラベリング成形
事前に印刷されたラベルを金型に配置することにより、プラスチック部品と融合する。インモールドラベルは金型内に配置され、溶融プラスチックが注入される。その後、ラベルはプラスチック部分と融合し、冷却すると完全に固化する。 これにより、永続的で耐久性があり、長期間使用できるラベルを備えた成形品ができる。(筆者が一部加筆修正)
(引用:https://www.rapiddirect.com/ja/blog/what-is-in-mold-labeling/)
長沼 恒雄
株式会社アスカコネクト 取締役、博士(情報科学)・MBA
アスカカンパニー株式会社の代表取締役 兼 CTO、加東市商工会副会長。
大学を卒業後、株式会社サクラクレパスで品質管理を担当。その後、父親の経営するアスカカンパニー株式会社に入社し、アメリカの現地法人社長などを経て、2代目の後継者として約20年間社長として会社を牽引。現在は3代目である弟の長沼誠に社長をバトンタッチ。